「彼女は頭が悪いから」の感想

 

彼女は頭が悪いからという本を読んだ。相当序盤から理由のわからない不快さがあり読むのが大変だった。読み終えてからも実際の事件を調べたり、加害者の現在が気になって調べてしまった。加害者被害者どちらに対しても思うことがあり、後味が悪い小説の中でも読了後にここまでもやもやしているのは初めてだ。

 

内容は東大生と女子大のインカレで実際に起きた強制わいせつ事件を被害者加害者の視点から描いた小説だ。フィクションだが実際の関係者のインタビューを元に小説を書いているため文中に出てくる固有名詞が妙にリアルで自分の生活の中の出来事や人と接しているときに感じることとも重複する部分があり生々しかった。被害者加害者の中学生時代からそれぞれの視点で物語は進んで行く。

読み進める中で、被害女性の鈍さと素直さが醸成される家庭環境が周りの素直な人にとても似ており、その人が事件に巻き込まれていくようでとても苦しかった。また被害者家族は仲がよく、知り合いも近くに住んでおり基本的には仲が良く、生活も住んでいる地域内で完結する都心以外ではよく見る田舎の家庭で特には家庭環境に問題がないように見えた。それも自身に娘がいた場合、このような悲惨な事件に巻き込まれないような対策ができないことを示しており、自分に娘がいたらこのような事件に巻き込まれる可能性があることを考えると苦しかった。

また、加害者の東大生の自らの葛藤に対しての無関心さに驚いた。私であれば行動する前に立ち止まって結論が出ないことをだらだら考えてしまうところを完全にスキップして結果に対して最適な方法で淡々と物事を進めていて、間違った感想かもしれないが見事だった。だから私は受験で結果が出なかったのかと納得する。自分だけではなく他者の葛藤にもより無関心だった。葛藤が起きるのは、数字では測れない価値観や感覚の問題だからだ。それをスキップして結果を最短距離で出していくことがとても恐ろしかったし、基本的には社会ではそちらの方が評価されるということも恐ろしい。

 

加害者の東大生も被害者の女子大生も理解できないこと分かろうとすることを放棄していると感じた。理解できなくても現時点でどう思うのか結論を出し結果からどの程度乖離していたか確かめながら他者や社会との居心地の良い距離感を身につけていくものだと思う。ただ時代と共に出会う人や情報が溢れ、すべての理解できないことに向き合うことは無理だと思う。優先順位がないとそれはそれで処理できずに消化不良になり、前に進めなくなってしまう。この優先順位が利他的、利己的になりすぎないのが難しいのだろう。優先順位は無意識的に決まっていると思うので、様々なジャンルの人と関わることで自分の優先順位が意識的に分かるようになっていくのであろう。知らんけど。

とにかく読むのは覚悟が必要な本ですのでご注意を。